【本の紹介】『箱根駅伝は誰のものか』

新年最初の記事は本の紹介です。昨年11月に発売された『箱根駅伝は誰のものか』(酒井政人著、平凡社新書)を読んで思ったことをつらつらと書きます。

全5章のうち、箱根駅伝の収入や運営にかかる費用などスポーツビジネスに関連する話は第4章にまとめられています。内容の一部はプレジデントオンラインにも掲載されていますので、まずは先にこちらをお読みになるとよいかと思います。当ブログにとってはピンポイントな話題で美味しいところでした。

肝心の放映権料については「数年で数十億」という曖昧な記述にとどまっており、具体的にいくらかは書かれていないのですが、スポンサー料も含めて相当な金額が動く巨大なイベントとなっていることは事実です。


ちなみに別の記事では「3億円」という数字が出ていますが、これも放映権料というより協力金的な名目だと聞きます。映像制作はすべて日テレ側が行っていることにも注意が必要です。

では、箱根駅伝はぼろ儲けのイベントなのかというとそうではなく、収入が多くても支出もまた多いため、若干黒字になる程度だと記されています。関東学連に加盟する大学から、補助員として学生が派遣されていることはよく知られている話で、彼らには交通費と食事代程度しか支給されず、実質的にはボランティアです。


そんなイベントを運営する関東学連(関東学生陸上競技連盟)が法人格をもたない任意団体であることは、ガバナンスやコンプライアンスの面でも問題があることは事実でしょう。

さて、箱根駅伝がもっと儲かるイベントになるための手段として、「放映権をDAZNやNetflixに売れ」という意見が出てきます。これは小林至教授へのインタビューに出てきたのですが、まぁそんな単純な話ではありません。放映権を売ったところで、映像を誰が制作するのかという問題が出てくるからです。


この記事でも「お正月のバラエティ番組よりも安上がり」といった記述があるのですが、いやいや、最後のスタッフロールを見れば、どれだけのスタッフを投入して映像を作っているか分かるでしょう。むしろ、お正月のバラエティ番組のほうが、通常の内容を薄めて長時間に仕立てているのでむしろ安いんじゃないかと思いますが、具体的な金額を出せるわけでもないのでこのへんにしておきます。


箱根駅伝が日本テレビによってフルで生中継されるのは、箱根の山の中から電波を届ける技術が確立されたためであり、その点でも他社には簡単に真似できるものではありません。なので、もし売るとしても日本テレビが制作した映像を非独占で購入し、マルチアングルなどで提供する形になるでしょう。


買う側としても、単発のイベントを購入したところで収益にはつながりません。長期的に契約を続けてもらうための仕掛けが必要です。この点でも日本テレビは各大学にスタッフが張り付き、相当な費用をかけて取材を行っています。簡単に真似できるものではありません。年間を通じて開催されるさまざまなレースをパッケージ化することも必要でしょう。

沿道から簡単にレースを観られる反面、観客から料金を徴収できないのが公道をつかったレースの問題点です。それを補うために、東京ドームをスタート/ゴール地点にしてはどうかという案が東海大・両角監督や青山学院・原監督から出されています。こういったアイデアも大事でしょう。


もっとも、これも実現させるのは簡単ではありません。1月3日にはライスボウルが開催されるので調整が必要ですし、築地に新しいドームを建設する計画もあります。まぁ、今回で100回の節目を迎えましたので、そろそろ新しいチャレンジは必要かと思います。

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