本場イギリスの「ユニバーサル・アクセス権」を学ぶ。

新年、やはりニュースが少ないですし、若干時間に余裕があるということで、スポーツを「文化」や「公共財産」の視点から考えてみる記事を出します。この視点は行き過ぎた商業主義を是正する動きにつながりますので。

今回取り上げるのは、イギリスの「クラウンジュエル・リスト」にFIFA女子ワールドカップとパラリンピックが追加される…という記事なのですが、この内容は当ブログで定期的に取り上げている「ユニバーサル・アクセス権」について詳しく解説されたすばらしい教材ともなっておりますので、ぜひ知って頂ければと思い紹介する次第です。
ユニバーサル・アクセス権の説明については以下の記事も参照して頂ければと思いますが、スポーツは公共財であるという考え方が根底になります。そして、国民にとって重要な大会については貧富の差に関わらず、誰もが無料で視聴できる権利を保証しようというものです。

日本に当てはめれば、いわゆる「健康で文化的な最低限度の生活」の中の「文化的」というところにスポーツが入るわけですね。もちろんスポーツはするものであり見るものでもありますが、両方に参加できることが文化的であると解釈されます。
イギリスでは、政府が指定した大会について無料放送が義務付けられています。その大会のリストが「クラウンジュエル」と呼ばれているわけです。

放送できるのは国民の95%以上をカバーする放送局であり、公共放送のBBC、民放局のITV、広告を財源とする非営利組織のChannel 4といった局が該当します。また、放映権を売る側にも高値でふっかけたりしないよう「合理的かつリーズナブル」に提供するよう義務付けています。

クラウンジュエル・リストはふたつのカテゴリーに分かれており、カテゴリーAは生中継が必須。カテゴリーBは録画・ハイライトでも可となっています。
なので、後者については有料放送が生中継することも認められていることになります。

以下、カテゴリーA・Bのリストです。イギリスにとって何が重要な大会と考えられているかが見えてきます。
■カテゴリーA
総合: オリンピック
サッカー: FIFAワールドカップ
サッカー: EURO
サッカー: FAカップ(決勝)
サッカー: スコットランドカップ(決勝) ※スコットランド限定
競馬: グランドナショナル
競馬: ダービー
テニス: ウィンブルドン(決勝)
ラグビーリーグ: チャレンジカップ(決勝)
ラグビーユニオン: ワールドカップ(決勝)

ラグビーには15人制の「ラグビーユニオン」と13人制の「ラグビーリーグ」があります。現在開催されているワールドカップはユニオンのほうになります。
競馬はダービーのほかに世界最高の障害レースとされるグランドナショナルが指定されているところが伝統を感じさせます。
■カテゴリーB
総合: コモンウェルスゲームズ
クリケット: テストマッチ(ホーム開催)
クリケット: ワールドカップ(決勝・準決勝・自国の試合)
テニス: ウィンブルドン(決勝以外)
ラグビーユニオン: ワールドカップ(決勝以外)
ラグビーユニオン: シックスネーションズ(自国の試合)
陸上: 世界陸上
ゴルフ: 全英オープン
ゴルフ: ライダーカップ

クリケットが指定されているのがお国柄ですね。
あと、シックスネーションズで自国の試合となると、4か国はイギリスが絡んでいるわけですから、実質フランスvsイタリア以外は放送されると考えてよさそうです。
何かしらのスポーツが放送されるたびに、その競技のファンからは「地上波でやれ」という声が出てきます。それは当然のことなのですが、無料で放送するためには公共放送ならば貴重な受信料を使うわけですし、民放なら商売が成り立つだけのスポンサーが必要になることは言うまでもありません。

そんなジレンマを抱えながら、それでは実際に地上波で放送する価値のある大会とは何なのか。皆さんなりのリストを作ってみるのもいいかもしれません。

「人口の95%をカバー」という基準であれば、日本ではテレ東以外のキー局がクリアできるので、結構多くの大会が対象にできるかもしれません。もちろん残り5%の人を蔑ろにしてはいけないのは言うまでもないですが。

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