【本の紹介】『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』

昨年12月に発売された『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(宇都宮徹壱著、集英社)は、その題名の通りJリーグ前チェアマンの村井満氏の4期8年(2014~22)にわたる仕事について綴られたものです。

宇都宮氏によるインタビュー記事は、2023年2~3月にかけてスポーツナビに掲載されており、本書はこの内容をさらに深堀りしたものと言えます。

とくに2020年以降はコロナ禍により試合が中止となり、再開後も観客数を制限せざるを得ない状況が続きました。その苦境をどのように打破したかがポイントとなります。


当ブログとしては、以下の点に注目しました。

  • DAZN(当時はPerform Group)との放映権契約締結
  • 2ステージ制の導入と廃止
  • シーズン移行(いわゆる秋春制)の否決


DAZNとの交渉については、他のライターの方が村井氏に取材した記事を以前に読んでいましたので、既知の情報もあるのですが、改めて読み返すと面白いですね。


契約成立はゴールではなくスタートです。そして、そのスタートでいきなり障害が発生してつまずくわけですが、その顛末についても記されています。

そして、DAZNとの放映権契約について誤解されがちなことを復習するいい機会にもなります。この契約のポイントは、金額(当初は10年2,100億円)もさることながら、映像の著作権をJリーグが自ら管理することにあります。その代わり、映像制作もJリーグ自らが行い、費用も負担することになります。スカパーは年間50億円程度の放映権料を支払っていたとされますが、この時はスカパーが映像を制作し、著作権を持っていたのです。


「DAZNが放映権を独占しているからテレビでの報道が増えない」という言説もよく聞かれますが、スカパーが著作権を管理していた頃よりは映像を使いやすくなっています。また、無料のテレビ中継はDAZNが独占する範疇ではありません。地方によって報道量に差があることにも留意する必要がありますが、もし減ったとしてもDAZNが直接の原因ではありません。


あと、もしDAZNが破綻したら?という疑問についても少し記述があります。その際に債務保証をつけるための交渉を行っていたとのこと。具体的な名前は守秘義務ということで伏せられていますが、ひとつは親会社であるAccess Industries、そしてもうひとつはDAZNの株主でもある電通が候補としてあげられるでしょう。

2ステージ制については、村井氏がチェアマンに就任する前に決まったことであり、本人としては反対だったとのこと。そのため、テレビ出演などでの発言が曖昧なものになり、ファンの疑念を呼んだことを反省しています。


2016年に導入された2ステージ制は地上波でのチャンピオンシップの放送によって増収をもたらしましたが、翌2017年に終了しています。DAZNマネーによってそれ以上の増収を達成できたのも理由ですが、それ以前に日程面の問題が大きかったと言います。たった2年でやめたことは当時「迷走」だと報じられましたが、村井氏としては早くやめたかったそうです。

そして、先日正式に決議されたシーズン移行(いわゆる秋春制)の話ですが、これ自体は過去に何度も議論されてきたことであり、村井氏が在任中の2017年に理事会で否決されています。


その際に9つの理由があげられていますが、そこから変化したものと言えば、ひとつはACLが秋春制に移行したこと。そして、もうひとつはJリーグの人気が頭打ちになっており、変革が求められていることです。人口減少が止まらない中、このままでは市場が縮小することは明らかであり、外国から移籍金や放映権料などのマネーを呼び込みたいという意図は理解できます。あとは雪国クラブへの支援をどう具体化するかです。

本の後半はコロナ禍にJリーグがどう対処したかがメインテーマとなります。事業会社である株式会社Jリーグを「清算」する可能性に触れていたのはなかなか衝撃的です。


また、DAZNもライブ配信のコンテンツをすべて失い、一気に経営危機に陥りました。欧州CLの放映権を1年残して「返上」したことは、やむを得なかったのかもしれませんが多くのユーザーの反感を買うことになりました。Jリーグとの放映権契約もこの際に見直されていますが、そのあたりの経緯は本書をお読み頂ければと思います。

【お知らせ】現在コメント機能が使えない状態です。感想・意見・誤情報のツッコミ等ございましたら、筆者のX(旧Twitter)までお願い致します。 @flower_highway

0コメント

  • 1000 / 1000