ディズニー対YouTube TV続報。どっちが(も)悪いのか?

10月30日をもって契約が切れたディズニーとYouTube TVの紛争は、2週間たっても決着が見えません。従来の紛争はコンテンツホルダーとプラットフォーマーによるものでしたが、今回は両社ともに双方を兼ねる複雑な関係であり、今後の放送・通信業界の構造にも大きな変化をもたらす可能性を秘めています。


ディズニー側の損失について、YouTube TVの契約者が約1,000万件で1件あたり約15ドルを支払っていると推定されることから、月1.5億ドル(1日あたり500万ドル)程度と推計されていましたが、大手証券会社モルガン・スタンレーのアナリストによる推計では週3,000万ドル(1日あたり430万ドル)となっています。他社に乗り換えた人も多いので、まるまる500万ドルが減るわけではないのですが、日に日に損失が増えていることは確かです。

YouTube TV側は、当初発表していた「20ドルのクレジット」の発行を開始し、契約者に対してメールで通知しました。それ以前は月10ドル×6回だったとされ、かつWebサイトの奥深くまで行かないと獲得できなかったとのこと。日本からだとアクセス不可なので、詳細は検証できず申し訳ないのですが。


ただ、今回の20ドルについても自動付与ではなく、メールに記されたURLをクリックするなど自分から取りに行く必要があるとのこと。YouTube側の損失は最大で2億ドル(1,000万人×20ドル)となりますが、実際には解約済みの人や、取りに行かない(気づかない)人もいるのでそこまでには達しないでしょう。

YouTubeはディズニーに対して「加入者に直接損害を与える」取引条件を強制していると非難しており、値上げの提案であると理解されています。


そのため、論調としてもディズニーを非難するものが多いのですが、当のディズニーは社員に向けたメッセージの中で「従来の契約よりも費用がかからない」提案を行い、譲歩していると主張しているとのこと。両社の主張には食い違いがみられます。

YouTube側はディズニーに対し、他社よりも低い金額を提示している、という情報も出てきています。YouTube TVの契約者は早ければ2026年中にも業界トップになるという予測もあり、強気に出ている可能性もあります。


もしこれが本当だとすると、ディズニーは値上げではなくむしろ値下げを提示しており、それでもYouTube側は納得していないという話になるため、だいぶ構図が変わってきます。


現在の有料テレビ大手であるComcast、Charter、DirecTVはそれぞれMFN(most favored nations、最恵国待遇)と呼ばれる契約を結んでいるとされます。簡単に言えば最安値を保証するというものです。もしYouTubeが他社よりも安い金額で契約を結ぶことに成功すれば、MFNによって同価格での提供が義務付けられ、ディズニーによってはさらなる減収となります。


もちろん、その価格がディズニー自身にとって有利な設定であるかどうかも検証が必要となります。傘下にESPN Unlimited、Hulu + Live TV、Fuboといったプラットフォームを抱えており、これらに移行するよう巧みに誘導しているのでは、という疑いは今後もつきまといます。今回の件が解決しても、他社へと飛び火していくでしょう。

現在もっとも厳しい立場なのは、YouTube TVを通じて「NFL Sunday Ticket」を購入した人だと言われています。ローカル枠で放送されている日曜昼の試合について、全試合をライブで視聴できるチケットなのですが、(ディズニー傘下の)ESPNで放送されているMonday Night Footballは全米枠のためライブで視聴することができません。


また、NFL Sunday TicketはYouTube TVとのセット割引が提供されていることから、YouTube TVだけ単独で解約すると大きな損になるのです。どうしてもESPNが観たければ、「ESPN Unlimited」に追加で加入することになってしまいます。

※モバイルでの視聴でよければNFL+という選択肢もあり

海の向こうから見ると、消費者置き去りで醜い争いを繰り広げているようにしか見えないのですが、これがアメリカの資本主義であり、スポーツビジネスの縮図です。未来の日本が同じことにならないよう、いろいろと考えないといけません。

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