プレミア獲得のU-NEXTに勝算はあるか。
プレミアリーグおよびFAカップの放映権獲得を発表したU-NEXT。その親会社であるU-NEXT HOLDINGSの昨日の株価は4,595円(前日比+255)と大幅上昇。日経平均は-439円でしたので、流れに大きく逆らう形となりました。市場からはかなり期待されているようです。
さて、SPOTV NOWが撤退したのは採算がとれなかったからとしか言いようがありません。それに加えて次期放映権の獲得を逸し、残り1年を先の見通しがないままに過ごすよりは、早期撤退を選択したほうがましという判断になったのでしょう。
では、それに代わって新たな権利者となったU-NEXTに勝算はあるのか。そもそも放映権料が公開されていない状態であれこれ詮索するのもどうかとは思いますが、妄想を掲げているブログですのでいくつかの観点から探ってみることにします。
まず最初のポイントは「7年契約」です。プレミアの入札では3年または6年を選択する形となっていましたが、U-NEXTは6年を選択しています。そこにSPOTVが放棄した1年を加えて7年となりました。
ちなみに、日本と同様にSPOTVが権利を奪われる形となった韓国においても、新たな権利者であるクーパンは6年契約を選択しています。
3年契約よりも6年契約のほうが1年あたりでは安くなるのではないかと思われるかもしれませんが、これは長年デフレが続いてきた日本人ならではの感覚かもしれません。実際には6年契約のほうが高くなると思われます。これは、放映権市場が右肩上がりに成長していること、また物価も上昇していることが主な理由です。
以下にセリエAの事例をあげておきますが、セリエAは3年・4年・5年の選択肢を用意し、長期になるほど1年あたりの金額は高くなる目標を掲げていました。ただし、実際には5年・総額45億ユーロで決着し、目標の72億ユーロには大きく届かない結果となっています。市場が成熟し、成長が止まってしまうとこんな結果を招くといういい事例でしょう。
そう考えると、JリーグとDAZNが結んでいる契約が異例の長期であることがわかるでしょう。しかし、実際には市場の成長は鈍く、物価も上がってないわけですから、DAZNの苦しさもわかります。円安も加えると三重苦といったところでしょうか。
だいぶ話がそれてしまいましたが、U-NEXTとしては相応の負担をしたとしても、6年契約のほうが安定的なメリットを得られると判断しているわけです。それは、ころころと権利者が入れ替わることへのアンチテーゼでもあります。
次のポイントは料金設定です。今回、U-NEXTは新たに月額2,600円のサッカーパックを発表しました。会員には毎月1,200ポイントが進呈されるため、月額2,189円+差額1,400円=計3,589円となります。サッカーパック単独での契約もできますが、その場合は他のコンテンツは視聴できません。
SPOTV NOWは8月から価格改定を予定しており、月額2,000円のベーシックプランと、3,000円(または年額27,000円)のプレミアムプランの2本立てとなります。プレミアとFAカップしか観ていないという人にとっては、月額2,000円→2,600円になるため、実質的に負担が増えるとも解釈できます。
また、U-NEXTでラ・リーガを観ていた人にとっても、従来は基本料金で観られていたものがサッカーパックに移行するため、2,189円→2,600円と負担が増えます。プレミアとラ・リーガがひとつのプラットフォームで観られることでお得感を醸し出しつつも、実際は負担が増えている。そこが絶妙な設定だと言えるでしょう。
唯一恩恵を受けるのは、U-NEXTの「SPOTV NOWパック」を契約していた人です。月額2,189円+差額800円=2,989円が2,600円になるため、他のコンテンツを観なければ値下げとも言えます。あくまで観なければですが。
U-NEXTの経営状態をみてみると、堅実に黒字経営を続けていることが分かります。昨年「Paravi」を吸収したことで会員数も増え、5月末の時点で433.9万人となっています。
直近(第三四半期)のコンテンツ配信事業の売上は約276.3億円であり、会員数で割ると6,360円(月2,120円)となります。基本料金からポイント利用分を差し引くので2,189円より少し安い水準です。この金額(ARPU=1ユーザーあたりの売上)をオプション契約によって増やしていくというのがU-NEXTの戦略になります。
調査会社のGEM Standardによると、日本国内の動画サービス市場においてU-NEXTは15%のシェアを持ち、Netflixに続いて2位となっています。これは金額ベースの集計であり、会員数ベースだとAmazonプライムビデオのほうが上に来ます。
SPOTVやDAZNと違って、スポーツに特化していないことが強みになっていると言えます。とくにコロナ禍以降において、動画サービスの競争が激化したことにより、総合型のサービスがスポーツを取り込む時代となりました。逆に当時のDAZNは配信できるコンテンツがなく、大きなダメージを受けたのです。DAZNにとってはコロナが恨めしいことでしょう。
ここまでをまとめると、U-NEXTは安定した基盤をもっており、かつきちんととるべき料金をとっていますので、簡単に傾くことはないかな・・・というのが現時点の予想です。7年契約を最後まで全うしてくれることを期待します。
あともうひとつ。U-NEXT HOLDINGSのほうで出しているプレスリリースには、投資家を意識して以下の一文が盛り込まれています。U-NEXTグループは結構いろいろな事業を抱えており、法人向けのサービスも多いです。最近レストランでよく見かける配膳ロボットなんかも手がけています。これは、祖業が有線放送であることに由来するものです。
また、本契約に伴い今後はラ・リーガも含めたU-NEXTのサッカーコンテンツをホテルや商業施設、スポーツバーなどにも提供、当社グループの店舗・施設向け事業とのシナジーを生かし、スポーツ観戦の喜びを共有・共感できる空間作りをサポートしていきます。
放映権料が高くなり、ユーザーの負担も増えている中、レストランやバーなどで視聴するスタイルが日本でも今後増えていくでしょう。法人契約を推進し、こちらの需要も取り込んでいくというのがU-NEXTの戦略です。
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