幻のホームランを防げ。KBO・Jリーグの事例

「幻のホームラン」が話題となっています。5月27日に行われた神宮球場・ヤクルトvs.中日戦において、中日・川越選手が放った打球がファウルと判定。リクエストでも覆りませんでした。

似たような事象はたびたび起こっています。たまたま筆者も観戦していたのでよく覚えているのですが、昨年7月30日、エスコンフィールドで開催された日本ハムvs.オリックス戦において、オリックス・森選手の飛球がホームランと判定されたケースです。私も生で見ていて、ファウルだと思っていたのでびっくりしたのをよく覚えています。


両方ともポールより高く打球が飛んだので分かりにくかったというのが共通点です。また、映像検証でも判定を覆すだけの確信が得られなかったという点も共通しています。望遠レンズで撮影すると距離感がなくなるので、さらに難しくなります。

韓国のプロ野球(KBO)では、映像を一か所に集めた「判読センター」と呼ばれる施設があるという記事が話題になっていました。センターの存在もさることながら、この記事で大事なポイントは「各球場に7台のカメラが設置されている」ということでしょう。つまり、常に複数の角度から検証できるよう、統一された位置にカメラを設置しているわけですね。


その点において、NPBではカメラ位置に統一した基準があるという話は聞きませんし、リプレー検証に使われる画像は中継映像を制作しているテレビ局などから協力を頂き、提供してもらっているという状況です。設備も統一されていません。最近地方開催が減っている現状がありますが、地方でも一定水準の設備を確保する必要があるでしょう。

JリーグのVARは、FIFAの基準に基づいて実施されています。カメラは最低4台必要で、位置なども定義されています。ただ、それ以前からJリーグでは中継映像のクオリティを保つために、カメラの台数・位置などを定めたマニュアルを作っています。


これは2007年にJリーグの放映権を獲得したスカパーが、制作を委託する地方局や制作会社向けに整備したのがきっかけであり、2017年にDAZNが放映権を獲得してからは、DAZNの本部があるイギリスのスタッフも参加してブラッシュアップしているとのこと。これがあったので、VARも問題なく導入できたと考えられます。


あとはDAZNと放映権契約を結んだタイミングで、映像制作をJリーグが自ら手がけ、著作権も自ら管理する方式に切り替えたことも大きいでしょう。Jリーグでは映像を管理するための「FUROSHIKI」と呼ばれるシステムを構築しています。

もちろんJリーグにも課題があって、どうしてもコストが高くなるため、現状J1でしか導入できていません。2023年にはVARの機材を積んだ車両が手配ミスでスタジアムに到着せず、この試合だけVARなしで開催せざるを得なくなりました。


対策として上述のKBOのように映像を一か所に集めた「セントラル方式」が検討されていますが、実現には至っていません。FUROSHIKIには各会場からの映像を集約する機能がありますが、全部のカメラの映像をリアルタイムで伝送するのは通信コストが高すぎるようです。FIFAも簡易的なVARの仕様を検討しているとのことで、今後はJ2・J3にも採用される時が来るものと期待されます。


プロ野球も放映権を一括管理すべきか、という論点はたびたび登場するのですが、マニュアルの整備は必ずしも一括管理しなくとも手を付けることはできるでしょう。ただ、誰がやるのか、誰が資金を出すかはきちんと握っておく必要があります。そういう点では、NPBが一括管理してNPB主導でやるほうが楽だとは言えます。

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