Jリーグクラブの価値は過小評価か。
先日は、ANA総研が出した「Jリーグは誰のものか」というレポートの話をちらっと取り上げましたが、今回はレポートではなくきちんとした論文として発表されているものです。もっとも、掲載されているarXivというサイトは自由に論文を発表できる場なので、学術誌のように査読が行われているわけではないことに留意する必要があります。
東京大学先端科学技術研究センターから出された論文は"Valuation methods for professional sports clubs: A historical review, a model development, and the application to Japanese football clubs"という題名であり、簡単に言えば欧州のサッカークラブの企業価値を算出する数式を作り、それをJリーグのクラブに当てはめてみるというものです。
「スポーツの価値学」という研究の成果として発表されており、この研究はJリーグのトップスポンサーである明治安田からの寄付という形で実施されています。また、木村正明特任教授は元Jリーグ専務理事であり、J2・ファジアーノ岡山のオーナーでもある人物です。
これによると、欧州クラブの企業価値に近似するモデルとして2種類が検討され、ひとつは「売上高とSNSのフォロワー数」、もうひとつは「選手の市場価値とSNSのフォロワー数」です。両方ともSNSが共通しているのが面白いところですが、クラブの人気を客観的に表す指標で、かつ誰でも閲覧できる情報として便利だということでしょう。
このモデルをJリーグのクラブに当てはめてみたところ、前者のモデルと後者のモデルでは大きな開きが出ています。つまり、Jリーグに所属する選手の市場価値はまだまだ低く見積もられているということであり、今後Jリーグがさらに成長していくためには、移籍金で稼ぐことが重要であることを示唆しています。観客動員や放映権料の成長の余地が限られていることを考えれば、妥当な見解ではないかと思います。
先日レッドブルが買収したJ3・大宮アルディージャ(来季J2昇格決定)ですが、買収額は3億円だったと報じられています。実際にはクラブの債務を引き継ぐ形になるのでもっと多くの金額が必要になるかと思いますが、それでも「安い」という印象を受ける方が多いかと思います。今後は外資の参入がさらに増えるものと考えられますが、その場合にもさらに多くの金額を引き出すために理論武装が必要です。
この論文を踏まえて、ラグビーの記事を多く執筆されている日経新聞の谷口誠記者が「Just RUGBY」に寄稿しています。ラグビー・リーグワンのほか、最近開幕したバレーボール・SVリーグにも触れていますが、Jリーグのクラブはすべて独立した法人として運営されているのに対し、リーグワンやSVリーグはまだ法人化されたクラブが少ない点をあげています。
これらのスポーツは海外でも他のスポーツに押され気味であり、逆に言えば日本が進んだビジネスモデルを作ることができるチャンスでもあります。実際に、海外の有力な選手が日本のリーグでプレーするケースも目立っています。
日経新聞といえば、Jリーグのことを「税リーグ」だと批判した・・・といった話がSNSではよく聞こえてきますので、これについても簡単に触れておくことにします。
もとになったのは2023年5月19日に掲載された以下の記事だと思われますが、これは村井前チェアマンへのインタビュー記事であり、村井氏がそのような批判を浴びたというエピソードが書かれているもので、別に日経新聞がそう言ったわけではありません。有料になっている部分も読んでみると、むしろコロナ禍で厳しい経営状況の中、脱落するクラブを出さなかったことを評価しているようにも読み取れます。
あと、記事では「税リーグ」ではなく「ゼイリーグ」と書かれています。まぁ、それ以前からネットではそういう隠語が飛び交ってますので、そこに乗っかったものだと考えてよいでしょう。
実際には、このようにラグビーを追いかけている記者の方もいますし、もちろんサッカーに詳しい方もいますし、日経新聞の中でもさまざまな立場の人がいらっしゃいます。スポーツに限らず、海外の情勢を絡めたエンターテインメント全般の話であったり、また地方創生の話なんかは日経新聞の取材力に負うことが多く、今後も期待するところです。
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