EURO放映権がない国、タイの事情と日本の今後。

先日UEFAが公表したEURO2024の放送局リストにおいて、日本のほかに名前が記されていない国がいくつかあります。今後事態は刻々と変化しますので、また何かありましたら随時お伝えしますが、その中のひとつであるタイ(Thailand)について記します。

前回のEURO2020(開催は2021年)において、タイでの放映権が確定したのは6月11日のことでした。タイ時間では開幕前日、現地時間では当日というまさに直前のタイミングです。


放映権を購入したのは放送局ではなく、製靴会社などを経営する実業家のKomol Jungrungreangkit氏でした。彼は当時の産業大臣の兄でもあり、政治的な臭いも漂います。購入した放映権は国営放送・NBTに無料で寄付されました。

UEFAの代理店が要求した金額は3.1億バーツ(約1,000万ドル)で、それに対しJungrungreangkit氏が提示した額はわずか1,000万バーツだったとのこと。しかし、開幕直前になってUEFA側の要求をそのまま呑むことにしたそうです。まぁ、こうなると今回はさらなる金額を要求してきそうで、簡単には済みませんよね・・・

2022年のワールドカップ・カタール大会でも混乱がありました。タイの政府機関であるNBTC(放送通信委員会)と民間企業が合同で放映権を購入することになり、決着したのは開幕3日前のことでした。タイ代表が出場しているわけでもない大会に公金が投じられたことは、大いに議論を呼んだそうです。今回のEURO2024について、政府スポーツ庁は介入の意志がないことをわざわざ表明しています。

2023年にはタイ国内リーグの放映権でも混乱が生じています。正直なところタイのサッカー事情にそこまで明るくはないため、詳しい説明は割愛させて頂きますが、タイのサッカー熱は天井に達しており、また経済事情も芳しくないようです。


このあたりは日本とも共通点がありそうですが、別に人気がないと言ってるわけではありません。周囲の期待ほどは成長しなかった、ということです。放映権はある種の先行投資的な意味も帯びており、回収が難しくなったと判断されれば揺り戻しが待っています。最近だと中国がそうでした。

さて、話を日本に向けますと、前回タイ側が支払った金額が約1,000万ドルだったというのがなかなか衝撃的な数字で、日本への提示額も同レベル、あるいはそれ以上ではないか・・・とつい疑ってしまいます。正直、日本の市場がよく見えてないとしか言いようがありません。そして、代理店のスタンスとして直前になっても折れないことも分かります。


以下の記事は、2022年にプレミアリーグの放映権をEclat Media Group(SPOTV NOW)が獲得した際のものですが、ここでは欧州CL/ELの放映権料に関する記述もありまして、前回のサイクルから75%減少したと書かれています。


The value of Asian Football Confederation rights dropped by 60 per cent in the current cycle, while the value of Uefa club competition rights has dropped by 75 per cent.


前回というのは、DAZNが落札し、そしてコロナ禍のダメージにより途中で放棄された権利を指します。WOWOWは1年残っていた契約を引き継ぎ、決勝トーナメントから放送しましたが、あわせて次期(2023-24シーズンまで)の権利も安値で買うことができたわけです。

WOWOWは来シーズン以降も引き続き欧州CL/ELの放映権を獲得することに成功しました(ECLも)。しかし、前回は格安で獲得できても、今回は反発があるだろうと考えるほうが自然です。そこに円安も加わりますので、WOWOWにとってはかなりの負担になったのではと想像します。


果たしてEUROまで手が回るのか。WOWOWは1996年から放送を続けており、これまでの実績からある程度お友達価格になっている可能性もありますが、それでも手が出なかったという事実は重いです。

CL/ELとセットの形でEURO本大会も交渉できるのでは?と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、実は代理店が異なります。UEFA主催大会のうち、ナショナルコンペティションはCAA Eleven、クラブコンペティションはTEAM Marketingが代理店を務めています。UEFAが直接介入すれば別ですが、難しいと言わざるを得ません。


ということで、今後もギリギリの交渉が直前まで続くことが充分考えられます。日本においては円安という特殊な事情もありますが、WOWOWが耐え切れなくなったことのインパクトも大きいです。他社に移るとしても慎重な判断が迫られます。

もうひとつ情報を付記しておきます。昨年UEFAによって実施され、そして不成立に終わったと考えられる入札ですが、今大会だけでなく次回2028年大会も対象となっています。つまり、今後日本の放送局が発表される際には、2028年も含めた契約になる可能性があります。

https://editorial.uefa.com/resources/028d-1af70be977d1-3460cd4965ad-1000/iso_uefa_euro_2028_-_20240523.pdf


放送局に対して問い合わせをされている方もいるようですが、放送局側にも守秘義務があります。放送予定があるともないとも言えませんし、交渉をしているかどうかも言うことができません。そもそもカスタマーサポートに情報が下りているはずがありません。残念ながら、ここは正式発表まで待つしかないのです。

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