【ダイヤモンド】DAZN Japan CEOのインタビュー

ダイヤモンド・オンラインに、DAZN Japan(日本支社)のCEOである笹本裕氏のインタビューが掲載されています。週刊ダイヤモンドの編集者の方がインタビュアーを務めており、ビジネス誌らしくDAZNの収益面や今後の戦略にフォーカスした内容となっています。質問内容も的確だと感じましたのでぜひご一読ください。

今年2月に就任した笹本氏ですが、自ら積極的にメディアに露出するようになりました。従来のDAZN Japanにはやはり秘密主義と言いますか、顔が見えないイメージがつきまとっていましたので、それだけでも大きな変化だと思います。


こういうブログをやっていると、情報収集の際には嫌になるほどDAZNへの批判コメントが目に入ってきますので、他人事ながら勝手に心を痛めることも。もちろん的確な批判も多いですが、誤った認識に基づくものも結構見受けられます。このあたり、以前からもっと情報発信にきちんと取り組んでいれば、減らすことができたのでは・・・と思うこともあります。

笹本氏の前職はTwitter Japanとのことで、こういった広報・コミュニケーションの面が今後改善されることを期待します。その一方で、Twitter(現X)はイーロン・マスク氏による買収で経営方針ががらっと変わり、大幅なリストラが行われました。


その過程で起きた摩擦がきっかけとなり、笹本氏も離れることになったわけで、外資系で働くうえの難しさというのはどうしてもつきまといます。このインタビューでも、当然ながらこの点については質問されていました。


 日本は「そこそこ」の経済力と人口があり、ビジネスとして非常に魅力的なマーケットです。ただし、文化も商慣習も独自性が高い。海外から世界の中の一つでしかない日本として見られると、正しい成果を出すのは難しいというのが自分の経験の中ではありました。
 その意味でDAZNは特殊というか、グローバルのルールを強制するのではなく、日本のニーズを尊重しつつ、それをグローバルの事業計画にどうやって生かすかという考え方になってきています。我々がこの数年先まで描いている計画に対しても理解してもらえています。


笹本氏の回答では、Twitterほどトップダウンではなさそうですが、同時に日本市場の特殊性が強調されています。それゆえ、マーケティング戦略についてはある程度DAZN Japan側に裁量権が与えられていると考えてよさそうです。ただ、技術面やUIなどの機能面といった開発が入るところについてはあまり裁量はなさそうに感じます。ここはなかなか改良されないところですからね。


日本はドイツと並んでDAZNがサービスを開始した市場であり、かつ早期にJリーグとの契約を結んだことから重要な市場だと位置づけられてきましたが、最近は円安によって相対的に重要性は下がっていますし、DAZN全体の最近の戦略をみても、日本がかつてほど重視されていないことは感じ取れます。各国の支社ごとに自由に裁量権を与えて競わせるというよりも、日本は仕方なくやらせてるのでは・・・と思ったり思わなかったり。


笹本氏には「アジア事業開発」という役職もつけられています。DAZNは、アジアだと旧Eleven Sportsが参入している台湾市場もありますが、それだけでなく、かつて進出を計画していた東南アジアなども再び視野に入れているように思われます。その際、日本市場で培ってきた経験が活かされることになるでしょう。

売上面という点では、最近も日本代表戦が無料で配信されましたが、フリーミアムと有料課金のバランスも大きな課題です。笹本氏の発言では、フリーミアムに今後力を入れていくことを示唆しています。将来的には広告収入と料金収入を1:1程度にしたいとしています。今回の試みは、将来を見越した大きな実験だったと言ってよいかと思います。


また、その中間にあたるミドル層に向けた施策として、PPVの導入についても触れています。現在はボクシングや総合格闘技でPPVが採用されていますが、今後他の競技にも広がっていく可能性があります。

日本においては、笹本氏の就任以前からJリーグを毎節1試合Twitterで無料配信していたこともありますし、公式YouTubeでは結構無料でさまざまな動画を惜しみなく配信していたりもしています。


料金の高さ以前に、日本人はなかなか課金しない・・・という話も聞きます。これも市場の独自性なのかとも思いますが、DAZNでも最近12月からフリーミアムへの取り組みを強化しています。この点では、むしろ日本のほうが先行していたのかもしれません。

また、日本においてはABEMAとの提携も大きなトピックスと言えるでしょう。無料がメインのABEMAと組み、「ABEMA de DAZN」ではJリーグや欧州サッカーの一部試合を無料配信しています。こうした取り組みの成果も本部にはレポートされているはずです。

あと、当ブログ的に注目すべき発言はやはりここでしょう。放映権料の相場についてデータで検証していく、という話です。


放映権は頭打ちして微減になっている国もあれば、非常に高騰している地域もある状況です。今年は「正当な放映権料とは何か」ということを、データを基に科学的に検証していくことに力を入れています。8年間運営してきたので、かなり知見を構築できていると思います。


今年に入って、Jリーグのクラブ価値を正当に評価するための数式を考察した論文が出ていますが、同様にいくつかのデータを数式に当てはめることで、妥当な放映権料の金額をはじき出そうということかと思います。

放映権料の高騰とひと口に言いますけど、高騰の要因として大きいのは競合の存在です。しかし、データによって金額を算出する場合、競合の存在というパラメータは果たして組み込まれるのか。従来よりウェイトはだいぶ下がるでしょうし、まったく無くなってもおかしくありません。


実際、今年に入ってDAZNが参加した放映権の入札では、リーグ・アンは前回よりも低い金額で落札していますし、ベルギーリーグでも低い金額を提示したと報じられています。過当競争を避け、我が道を行く戦略に転じている可能性があります。DAZNにとって黒字転換は必須の課題です。きちんと利益が得られるリーグかどうかが問われていきます。(リーグ・アンはそれでも高かったのでは?という気もしますが)

そして、当然ながらこの話は今後Jリーグにも適用されることになります。現在は2033年まで契約を結んでいますが、はじき出された金額が現在よりも大幅に低かった場合、果たしてどうなるのか。減額、さらには撤退というシナリオも否定できません。


そして、こうなった場合、次の業者がDAZNを上回る金額を提示する可能性はほぼゼロと言ったよいかと思います。Jリーグは現在の放映権料に見合った価値が提供できているかどうか、今後より一層の努力が求められることになります。

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