ルヴァンカップ放映権、フジ剥奪?の論点。
フジテレビ問題によって、フジテレビで放送されているさまざまなスポーツ中継がピンチになっています。当ブログでは、放映権料の不払いによって放映権が取り消されたケースは多数取り上げてきたのですが、放送局のガバナンス問題は扱った覚えがありません。今後どんな事態に発展していくのか、きちんと見守っていく必要があります。
すでにまとめのページも作ったのですが、今回はさらに詳しい情報をということで、Jリーグ・YBCルヴァンカップについて取り上げます。Jリーグの理事会でも議題にのぼったとのことで、今後放送の取り扱いについて議論されることになります。3月20日には今シーズンが開幕しますので、時間はさほど残されていません。冠スポンサーであるヤマザキビスケットの意向も伺いつつ、何かしらの決定を下す必要があります。
ルヴァンカップの放映権を持つのはフジテレビとスカパーです。スカパーにはフジテレビからサブライセンスされているとされます。決勝戦は地上波で生中継され、それ以外の試合についてはフジテレビのCSやFOD、そしてスカパーのチャンネルで放送・配信されてきました。
3月に開催される1回戦の試合については暫定的に放映権を止める、といった案が考えられます。3月末には第三者委員会の報告書がまとまる予定であり、その内容を確認したうえで4月から再開させるというシナリオです。
その場合、問題となる点はまず映像制作をどうするかです。リーグ戦の映像はJリーグが自ら制作し、著作権もJリーグが管理します。ルヴァンカップについても最終的に著作権はJリーグの管理となりますが、制作はフジテレビとスカパーになります。
基本的にフジの系列局がある地域ではその局が、ない地域についても以前スカパーがJリーグ中継をしていた時のノウハウが活かされ、外注業者が決まります。その仕組みはDAZNに放映権が移ってからも受け継がれています。ですから、Jリーグが直接発注する形に契約を書き換えればいちおうはクリアできるはずですが、時間の猶予がありません。
フジテレビの放映権を取り消した場合、スカパーはどうなるのかという問題もあります。スカパーの持株会社であるスカパーJSATホールディングスですが、約27%の株式を保有する筆頭株主は「伊藤忠・フジ・パートナーズ株式会社」です。この会社は、伊藤忠商事が63%、フジ・メディアホールディングスが37%を出資した合弁会社です。
さらに、この会社の代表は先日フジテレビの新社長に就任した清水賢治氏であり、清水氏はスカパーJSATホールディングスの社外取締役でもあります。間接的なフジテレビの持ち分は27%×37%=約10%なのですが、フジとスカパーの関係をどうみるべきでしょうか。
もっとも、かつてフジテレビが「RIZIN」との契約を取り消した後も、RIZINはスカパーのPPVで放送され続けています。地上波と衛星放送では求められるガバナンスが異なると考えてよいのでしょうか。どちらも上場企業であることには変わりませんが。
ということで、フジテレビだけでなくスカパーの権利も取り消される可能性が考えられるわけですが、そうなるとJリーグは放映権料の多くをあきらめることになりそうです。昨年からディレイ配信を行っているLeminoだったり、あるいはDAZNだったりに協力を求めることになりますが、いまから追加負担に応じるとも考えにくいです。
DAZN待望論は必ず出てくるのですが、DAZNにとっては旨みのない話です。今年からLeminoがJ3を全試合配信しますので、J3のクラブのサポーターは加入してくれるかもしれませんが、それも一時的であり定着が見込めません。トーナメントで半数近いクラブが初戦敗退するのですから、課金するならPPVにするのが現実的でしょう。
そもそも、フジテレビと契約しているのはDAZNの経営が傾いた時のリスクヘッジ的な要素もあります。なのに、フジのほうが傾くのですから皮肉なものです。
ルヴァンカップの放映権料については公開されていません。Jリーグが公表している「SEASON REVIEW 2024」によると、放映権料に相当する「公衆送信権料」について、2025年度の予算は219億円となっています。これにはDAZN以外にもNHKや地方局からの放映権料が含まれますし、また海外からの収入も含まれます。
DAZNは2023年に11年間で総額2,395億円の契約を結びました。1年あたりに換算すると217億円ですが、この金額はレベニューシェア分を含めた上限額であり、実際にはもっと少ないと考えられます。また、毎年均等に支払われるのではなく、右肩上がりになっているものと想定されます。
DAZNの契約初年度だった2017年には160億円が支払われたとされています。今回の契約ではJ3が対象から外れていますが、この160億円が最低ラインとみてよいかと思います。
リーグ戦の試合数はJ1・J2あわせて760試合(+昇格プレーオフ3試合)です。ルヴァンカップはファーストラウンド48試合、プレーオフラウンド8試合、プライムラウンド13試合の計69試合ですので、単純計算でもリーグ戦の1/10未満となります。大会の位置づけや、平日開催が主であることも加味するともっと下がるでしょうか。
これらの要素を総合すると、ルヴァンカップの放映権料は10億円あるかどうかと言ったところかと思います。映像制作費をどちらが負担しているかによっても、この数字は動きますのであくまで参考と考えてください。Jリーグには、この金額をあえて捨てる覚悟が求められます。
さらにその先には、秋春制移行にともなう「特別大会」、いわゆるハーフシーズンが待っています。この特別大会の放映権がどんな枠組みになるかも現時点では明らかになっていませんし、来年以降のルヴァンカップをどんな日程、どんな形式で開催するかも分かっていません。
DAZNの経営も安定しているとは言えません。撤退リスクは常に存在していると言ってよいでしょう。バックアップとなり得る存在をいまから探しておくことが必要です。Leminoはひとつの有力候補と言えるでしょうが、特別大会の枠組み、そして放映権がどうなるかは今後のJリーグを安定的に運営するためにも極めて大切になってきます。
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